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PBR-ROE モデルから PBR-ROIC モデルへ(400社の分析データより)

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PBR-ROE モデルから PBR-ROIC モデルへ(400社の分析データより)

伊藤レポートが2014年8月に発表され、6年が経過した。低金利が続く中で、経営の収益性の目標として、「ROE8%以上」を目標する企業は、時代から取り残されているのではないか?

割安株を探す際に、PBR1倍の指標が使われたりするが、ROE, ROICの指標を併せて使った方がいいのではないか?

これらについて、米国企業の400社のデータを分析した結果を使いながら説明をしたい。

ROEは8%以上を目指せ(伊藤レポートについて)

2014年8月に経済産業省より一つの報告書が発表された。

「持続的成長への競争力とインセンティブ ~企業と投資家の望ましい関係構築~」

このレポートは、「持続的な企業価値の創造」をテーマに、一橋大学大学院商学研究科 教授の伊藤 邦雄氏を座長として、大学教授のみならず、第一線で活躍するファンドマネージャー、大企業のCFO等の有識者が集まって、纏められた報告書である。

俗にいう伊藤レポートである。このレポートの一節では、

「グローバルな投資家と対話をする際の最低ラインとして8%を上回るROEを達成することに各企業はコミットすべきである。」

出典:経済産業省(参考)

とROEの重要性が語られ、中長期的なROE向上を経営の中核目標にいれて、それにコミットした経営をすべきであると提言されている。

このレポートを分かり易く一言で言うと、「ROE8%以上を達成しないと、投資対象として見られず、株価が上昇しない。」という事を表している。

このレポートを受け、ROE8%以上を一つの経営指標として経営計画を立てる日本企業は多くなった。

また、このレポートの情報・意見の提供者である「ニッセイアセットマネジメント株式会社」が、ROE8%の妥当性を示す一つのデータをホームページで公開してくれている。(参考)

このような経緯や情報を踏まえ、
米国株を使って、ROE8%の妥当性について、
「PBR と ROE」「PBR と ROIC」 の相関関係を見ながら検証してみたい。

PBR と ROE について

下図は、米国企業400社の「PBR、ROE、時価総額」をプロットしたものである。

「横軸:ROE」「縦軸:PBR」「球:時価総額」

このグラフから読み取れるのは以下の2点。

  • PBR 1倍以下の株は少ない。
  • ばらつきはあるが、ROE 10.5%以上でPBRは上昇する。

つまり、企業価値を高めたい経営者はROE 10.5%以上を目指すべきだし、PBR 1倍以下の割安株を探している投資家はROE 10.5%以上になる可能性がある株を狙うべきだろう。

上図から、多少のばらつきはあるものの、ROE10.5%以上でPBRが上昇することが確認できる。しかし、これは、伊藤レポートで言われている「資本コストを上回る目安はROE8%」と食い違っている。

このグラフを見ると、米国では資本コストの目安と言われている8%より高いように見える。

では、次に、PBRとROICを使って傾向を見て見よう。

PBR と ROIC について

下図は、米国企業400社の「PBR、ROIC、時価総額」をプロットしたものである。

「横軸:ROIC」「縦軸:PBR」「球:時価総額」

図を見るとROIC8%以上でPBRが上昇するのが確認できる。
これは資本コストを上回る目安と言われる8%と一致している。

ここで、先ほどのPBR-ROEモデルに話を戻したい。

PBR と ROE (財務レバレッジのゆがみ)

これまでの「PBR-ROEモデル」と「ROE-ROICモデル」の2つグラフを踏まえると、資本コストを上回る目安と言われるROE8%の基準は近年の低金利による負債の増加(財務レバレッジ)の影響でROEの指標にゆがみがでて、右にスライドしていると推察される。

近年の自社株買いの状況を見ると、自社株買いに積極的な企業は、過去10年間で30%前後の株数を自社株買いによって減らしている。

  • IBM 32.8%
  • McDonald 30%
  • Oracle 26.4%

つまり、収益性の観点で見ると、自社株買いによってROEは歪みが生じているように見える。

例えば、ROE=8%の企業があったとしよう。

R=8 E=100 として、30%の自社株買いをすると、
R=8 E=(100-30)=70 になる。
ここで、ROEを計算しなおすと、
8 ÷ 70 ×100% = 11.42%となる。

つまり、

10年間で30%の自社株買いをした場合、収益性が変わらなくても、
企業のROEは8%から11.42%に上昇する。

これは、

前述の「PBR と ROE」の関係で見たように、
PBR上昇の目安とされるROEの数値が、8%から10.5%に上昇している状況と近似する。

※「自社株買いに積極的な企業」を抜粋して、自社株買いを30%と仮定したが、「自社株買いをしない会社」もあることを考慮すると、実態の自社株買いの平均値は30%より低い。(つまり、実態の上昇目安とされるROEは、11.42%以下(8%以上)にあると思われる。)

PBR-ROEモデルとPBR-ROICモデル

以上より、低金利で社債の発行、自社株買いによるROEの歪みという近年の情勢を鑑みると、

伊藤レポートの

「グローバルな投資家と対話をする際の最低ラインとして8%を上回るROEを達成することに各企業はコミットすべきである。」

という一節は

「グローバルな投資家と対話をする際の最低ラインとして8%を上回るROICを達成することに各企業はコミットすべきである。」

と修正した方が良さそうである。

(補足1)PBR1倍以下はROIC8%以上を目安に

PBRが1倍以下の水準では「時価総額 < 株主資本」の状態であり、会社を解散して現金化した方が価値があると言われる。そのため割安株を探す際の目安にPBR1倍が使われたりする。

今回、使用した図でもわかるように、PBRが1倍以下の株は少ないため、ある程度はPBR1倍のラインに一定の優位性があるように思われる。そのため、一時的な売られ過ぎのリバウンドを狙うのであれば、PBR1倍を意識して投資をするのも良いように思われる。

しかし、今回の分析から、PBRが1で割安でもROEが一定値を超えないと株価の継続的な値上がりは期待できない事がわかる。

これを、かみ砕いて言うと、収益性の低い企業は追加投資しても、高いリターンは期待できないから、株は買われないし、収益性が低いと社債等を発行して資金を調達し、自社株買いでROEを上げるインセンティブも働かないという事だろう。

難しく言うと、ROEが期待収益率、株主資本コストの水準を超えないと事業拡大のレバレッジをかけるインセンティブが働かないという事だろう。

今回、得られた知見を活かすのであれば、

PBR1倍以下の割安株を探す場合、ROIC8%以上を目安とする

のが得策のように思われる。また、ROEでみるのであれば、10.5%以上を目安とするのが良いと思われる。

(補足2)経営指標としてのROEとROIC

経営指標としてROEの数字を掲げる企業も多いが、負債のコントロールで調整できるROEより、ROICの指標を経営指標に据えるべきだろう。

ただし、ROEの指標が悪いかというと、必ずしも悪いという訳ではなく、負債の比率を増やしていない企業は、引き続きROEを指標として使っても問題ないと思われる。

しかし、現在の低金利下において、ROEを経営指標として採用するという事は、以下の3点を示しているように思われる。

  • 本業で稼ぐ力がない。
  • 業績が悪い場合は財テクで調整する。
  • 財務の透明性に対して意識が低い。

この事に既に気付いている企業も多く、経営指標にROICを採用している会社も増えてきている。財務の透明性を意識するのであれば、ROICを経営指標として掲げるべきだろう。

また、投資家としても、ROEだけでなく、併せてROICを意識して投資するのが良いと思われる。ROICが確認できないのであれば、ROEが向上した要因として、負債が増加していないか注視するのが良いだろう。

 

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