【2020年6月 ささっと決算】Zoom
対象企業:Zoom
対象企業はビデオ会議システムのズーム。COVID-19の影響で、リモートワークが増え、急激に利用者が増加。どのような決算になったのか確認してみよう。
Earning Callを片っ端から力技で確認。
◆Zoom ズーム
まずは、決算の数字をグラフにして、いくつかのポイントを説明したい。
決算概略
出典:IRよりグラフ作成
決算のポイント
- 売上が169%増加(YoY)。
- コストが330%増加。
- 研究開発費が91%増加。
- 営業費が89%増加。
- 一般管理費が187%増加。
最大のポイントは、売上が驚異的に伸びている点だろう。
次に売上の増加率を軸にして見てみると、コストが売上の増加率より伸びている。つまり利益率が悪化している。これは自社のデータセンターではトラフィックがさばけなくなったため、AWSやOracle Cloud を利用したことによりコストが増加した様子。(長期的には自社のデータセンターを拡張し、自社のデータセンターに戻すことで利益率は回復していく見込み。)
研究開発費、営業費ともにコストをかけているが、売上が成長し過ぎたので、割合が減っている。
ざっくりと理解したところでEarning Callを確認してみよう。
ビジネス概況
- 売上が169%増の3億2800万ドル。
- 新規増加が約71%、既存増加が約29%。
- 従業員数10人以上の顧客は354%増。
- 約175,000の新規ユーザがライセンスを購入。
- Global2000の企業の使用率が200%増加。
- arm(マイクロプロセッサの設計)、Baker McKenzie(法律事務所)がZoomを採用。
- 従業員数10名以下の顧客割合は30%となり、20%から増加。これらの顧客は一般的に月払いであり、課金構成が変化。(一時的に解約率は高くなる可能性あり。)
- 米国 150%成長。APACとEMEA 246%成長(売上の約25%)。
- ミーティング参加者が1日3億人(2019年12月 1000万人)
(※有料・無料混在。ユニークユーザー数ではない。) - ミーティング時間は1000億分(2020月1月末)から2兆分へ。
- 前例のないトラフィックの増加により自社データセンターだけでは対応不可。
AWSとOracle Cloudの支援により対応。- 1日に数千台のサーバを数日間連続で追加した。
- 非GAAP売上総利益率は69.4%(前年同期は80.9%、前期は84.2%)
- K-12スクールを含む無料会議の需要増。
(K-12:KindergartenのKから高等学校までの13年間の教育期間) - トラフィックの急増に対応するためAWSやOracle Cloudのパブリッククラウドサービスを利用したことで利益率が悪化。今後は自社データセンターを増やすことで効率化を図り、今後数四半期で売上総利益率を70%台半ばに戻せると想定。
- K-12スクールを含む無料会議の需要増。
- 総売上高に占める研究開発費の割合は6%。トップセキュリティ企業の専門知識やリソースを活用するなど、イノベーションとセキュリティ機能を推進するため、研究開発投資を継続していく計画。
- 先日、2つの研究開発センターを追加したことを発表。アリゾナ州グレーターフェニックスとペンシルベニア州ピッツバーグの新しい研究開発センターは、いずれも一流の工学系大学の近くに位置する予定。
- セキュリティ強化
- エンドツーエンドの暗号化を実現するためKeybaseを買収。
- 新しいセキュリティ機能と強化機能を搭載したZoom 5.0プランをリリース。
AES 256 ビット GCM の暗号化のためのサポート。
その他(参考情報)
Q:競合他社に代わって既存の契約を結んでいる場合、その顧客を契約させた後、競合他社の契約を何ヶ月も無料で利用させることがあるが、その場合の処理はどうなるのか?
A:新規顧客としてカウントする。 606 の新収益基準では、無料期間を含めて全期間で償却される。費用は前払いで請求する。
この無料でサービス提供するあたり顧客の獲得競争の熾烈さが伺える。あと、この際の処理は期間で平準化するという点が学びであった。
まとめ
COVID-19の影響でトラフィック・新規顧客・売上が急激したZoom。急激にトラフィックが増加したことで、自社データセンターだけでは賄いきれずAWS,Oracle Cloud等のパブリッククラウドの支援(サービスを使う事)で乗り切った。これにより一時的に収益性は悪化しているが、自社データセンターを拡張する事で、収益率は元に戻っていくようである。(Zoomの前期の売上総利益率は84.2%と非常に高い。)
1日に数千台のサーバを数日間連続で追加したというような言及があったが、これはクラウド技術のなせる業である。クラウド関連の技術がある今の時代だからこそ、このような急激な規模の拡大ができたともいえる。
総売上高に占める研究開発費の割合は6%となっている。これは、売上が伸びすぎたから相対的に割合が低くなったという事らしいが、他から見れば、うらやましい限りの発言である。(そもそも、ビデオ会議はローカライズも不要だし、あまり開発費がかからないビジネスだからこそ売上高総利益率も高いし、研究開発費の割合も低くなるように思われる。)
課金ユーザの構造は、月払いの課金ユーザが多くなっており、今後は、COVID-19月が終息するにつれて、短期的には成長が足踏みする可能性がある。
一方で、爆発的にユーザ認知度が向上し、長期的な成長の可能性が広がったように思われる。セキュリティ対策にも力を入れていくようなので、長期的な成長に期待したい。
(補足)Zoomの今後
ZoomはZoom phoneを使って、ビデオと音声をシームレスに連携させるPBX(Private Branch eXchange:構内交換機)のビジネスを拡大していこうとしている様子。大企業だと特に組織の電話帳を使って同僚に簡単に連絡する手段として有効だったりする。
Zoom phoneの優位性は不明だが、ビデオ会議で新規顧客となったユーザを足掛かりとして、クロスセルに持っていけると販売機会を広げることができる。
PBXのマーケットは全体が成長しているようなので、この分野でも今後の活躍に期待したい。
因みにクラウドベースのPBXを提供するRingCentralの売上高総利益率を見ると75%ぐらいあるので、利益率もあまり悪化はしなさそうに見える。
おまけ
COVID-19の影響でZoomのトラフィックが急激に増えている事は、SimilarWebを見ていれば分かっていて、決算が良いことは、だいたい予想できていた。
ずんずん、Zoom トラフィック
2月 → 3月 → 4月
1億 → 8億 → 19億約20倍になってる。良くさばけたねー。 pic.twitter.com/DlnOuSpRHh
— ひっぺん(米国株/働かない革命) (@beikoku_kabu) May 30, 2020
このツイートをした時点から、決算を終えて、株価は22%上昇。
PSRだと50倍ぐらい。
前期の売上高総利益率85%をベースに、将来、利益率が30%ぐらいになったと仮定すると、
RERは150倍ぐらい。(現在の利益率8%だとPER625倍。)
高い…天井知らずに伸びている…
そうです。決算前に買って決算後に売っても良さそうだ。と思っていましたが、買えてません。正気では買えない。ぐぬぬぬー。
良い銘柄だと思っていますが、リスクオフ、COVID-19相場の終焉、証券会社等からのコメント、次の4半期の解約率などで、短期で大きく動く可能性があるので、お気を付けください。
今回の決算で気になったところと言えば、Oracle Cloudについての言及。もしかしたら、Zoomのトラフィック増加の恩恵を受けて、業績が良いかもしれない。
銘柄分析の記事はこちら
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