【2020年1月 ささっと決算】VISA、MasterCard、American Express、Square
対象企業:VISA、MasterCard、American Express、Square
Earning Callを片っ端から力技で確認。
◆VISA
業績の概況
- 純売上高の伸びは約13%。EPSの成長率は12%。
- 支払い量は世界全体で8%増加。
- 中国と英国を除くと10%増加。国境を越えた取引で9%増加。
- ネットワーク上で約380億件のトランザクションを処理し、11%増加。
- 電子商取引は、非電子商取引よりも3〜4倍速く成長。
- 電子商取引は消費者支出全体の1/3以上を占め、昨年と比べて2ポイント増加。
- 小売支出の伸びは昨年よりも強く、主に電子商取引に支えられた。しかし、旅行とレストランの支出の伸びの鈍化によって相殺。
- Visa Directが伸びている。(MoneyGram、TransferWiseもこの機能を利用)
- カード支払いのうちタップ(非接触)での支払いが去年の1/4から1/3へ増加。
地域別
- ヨーロッパでは、英国が大きな割合を占める。
- 英国の成長率は昨年のレベルと同様。
- 英国は非常に弱く、実際に選挙を通じて減速。
- 英国を除くと、ヨーロッパの残りの部分で成長は健全で12%増。
- ブラジルとカナダは昨年よりもわずかに強い成長。
- オーストラリアの成長率はわずかに鈍化。(山火事の影響)
- 日本は消費税の上昇で前四半期に支出が前倒しになった。
- 香港はデモの影響がある。
- アジアの他の地域では、非常に良好。
契約更新・提携
- Capital One、DKBと契約。
- カナダのロイヤルバンクとクレジットおよびデビットの複数年契約を更新。この契約には、カリブ海の17の国と地域を対象とする新しいデビットの獲得も含む。
- ラテンアメリカでは、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイでサンタンデールのクレジットおよびデビット事業を獲得。
- 米国では、PayPalとの強力なパートナーシップを反映しVenmoの共同ブランドクレジットカードに選ばれた。
- ソニーは、Sony Rewardsプログラムに関連する提携ブランドのクレジットカードを両方とも再発売。
- 米国、台湾、韓国、メキシコの共同ブランドプロバイダーとしてコストコとはすでに強い関係があり、この四半期に中国の共同ブランドを確保。
- モバイルマネーウォレットはすでにアフリカ全体に普及。資格情報が関連付けられていない場合、オンラインサービスを利用できない。この問題を解決するために、アフリカで最大のデジタル決済ハブであるMFS Africaとのコラボレーションを発表。
- 最近、複数支払いの受け入れと処理を可能にするアフリカのデジタル支払いプラットフォームであるFlutterwaveとのパートナーシップへの投資を発表。
(Flutterwaveの主な焦点は個人間の支払い)。
- Interswitchと戦略的パートナーシップを確立。Interswitchの株式を取得。
(Interswitchは、ナイジェリアの企業間取引の主要なプラットフォーム。)
その他
- ニューヨーク市のMTAで、Visaのタップでの支払いのパイロットの開始から11月に200万回、1月に300万回タップを記録。
- シンガポール政府は2023年までに支払いをデジタル化することを義務付けている。
- 新型コロナウィルスの影響を受けるが、まだ影響の見極めには早い。第2四半期の収益見通しは、最近の中国でのコロナウイルスの流行の潜在的な影響を反映していない。
- Plaidは、複数の方法でVisaに真の価値をもたらす可能性がある。
◆MasterCard
業績の概況
- 年間の収益は16%増、EPSは23%増。
- マクロ経済環境では、消費者支出は比較的健全。2020年も継続を見込む。
- 米国では、失業率が低く、安定した成長が見られる。
- ヨーロッパでは、緩やかな成長が続いている。英国の支出は、Brexitの潜在的な影響に関する不確実性にもかかわらず、第4四半期の自動車、ガス、レストランの前年同期比で増加。
- アジア太平洋地域では、一部の市場で有利な金融政策が支持されていることもあり、地域全体で緩やかに伸びている。
- 最近の中国との貿易取引に満足している。市場に参加するためのライセンスを追求する努力を続けます。(あらゆる種類のパートナーシップの機会について彼らと話し合っている。)
Removal of these barriers should allow U.S. financial service providers to compete on a more level playing field and expand their services export offerings in
the Chinese market.米中貿易協定の上記について言及していると思われる。
引用:https://ustr.gov/sites/default/files/US-China-Agreement-Fact-Sheet.pdf
少し時期が前後するが、下記の様な動きがある。
2019年10月30日、中国人民銀行上海総部が外国人が中国の決済アプリから排除されている現状を改善するよう指示。
2019年11月5日、アリペイとWeChatは、VisaやMastercardなど国際クレジットカードと連携し、中国の銀行口座を持たない外国人旅行者などにサービス提供を開始。)
- ラテンアメリカの見通しは、ブラジルとコロンビアの成長。アルゼンチンとメキシコの低迷により部分的に相殺。
- Mastercardのほとんどの市場で2桁の健全なボリュームとトランザクションの成長。
- スイッチドトランザクションは世界的に19%の力強い成長。非接触の継続的な採用を部分的に反映。
契約更新・提携
- Citibankとの延長。
- Capital Oneと関係の更新と延長。
- ソフトウェアpayUSと契約締結。今年後半に中小企業向けの新しいデビット、クレジット、給与・計算ソリューションを開始。
- アフリカ最大の銀行である南アフリカのスタンダードバンクグループとの取引を更新。共同ブランドでは、Amazon Rewards Mastercardがカナダで発売。
- 米国に本拠を置くモバイル消費者金融プラットフォームであるMoneyLineは、新しいクレジット共同ブランドプログラムの独占パートナーとしてMastercardを選択。
- 旅行業界では、インドのVistara Airlinesとの新しい共同ブランド契約を獲得。
- 長期にわたる共同ブランド関係である米国のノルウェークルーズラインも拡大。
- 世界最大のプリペイドプログラムであるDirect Expressのネットワークとの契約を更新。コメリカ銀行が発行したこのカードは、米国政府が迅速かつ便利で安全な連邦給付金の支払いに使用。
- 中国では、中国で2番目に大きな銀行であるChina Construction Bankの優先デビットパートナーとなる新たな取引を開始。
- China CITIC Bankとの最初のデビットプログラムも開始。
- インドでは、HDFC銀行とインド最大の公共セクター銀行であるインド国立銀行とデビット取引を更新するため、リーダーシップを維持。
その他
- ニューヨーク市のMTAで5月の発売以来500万タップを記録。MTSは2020年末までに非接触受付をシステム全体に展開する予定。TargetやSeven-Eleven、CVSなどの大手小売業者は、非接触型支払いを受け入れると発表。米国では非接触が伸びている。
- オーストラリアでは100豪ドル以下(7200円程度)の80%以上は非接触型の決済。
- Brighterion(2017年7月17日買収)の人工知能プラットフォームと新しいデータ行動生体認証機能は、コアセキュリティソリューションに広く統合されており、お客様が詐欺を最小限に抑え、リスクを管理できるようにしている。
- 2019年3月12日、Ethoca買収。不正な取引が特定されると、ほぼリアルタイムの情報が商人に送信されるため、商人は取引を確認したり、配信を停止したり、取引を取り消してチャージバックプロセスを回避したりできる。
- 2019年12月23日、RiskRecon買収。クラス最高のサイバーリスク評価機能は、金融機関、加盟店、企業、政府がデジタル資産を保護するのに役立つように設計されている。
- 短期的には、引き続きサイバーとインテリジェンスサービス事業に注力。非接触の成長を期待している。
- コロナウイルスの影響について、中国からのインバウンドおよびアウトバウンドは、e-commに関連。したがって、ある程度のヘッジを提供。しかし影響を伝えるのは時期尚早。
VISA、Masterのまとめ
- タップ・非接触型の決済が伸びている。ニューヨークの地下鉄での採用を切っ掛けに、成長に拍車がかかりそう。
- 貿易協定以降の中国市場展開・提携が注目。
- クレジットカードはサイバー・インテリジェンスのセキュリティ対策に投資。
- Apple Cardはゴールドマンサックスが発行しMasterCardの決済を使っている事を知る。
◆American Express
概況
- 四半期の売上高は9%増加。FX調整後収益は四半期10回連続で8%以上を達成。
- 新規カードメンバーの約70%が有料会員を選択。手数料収入が17%増加。
- 中国人民銀行がネットワーク申請を正式に承認。最終承認待ち。今年中にネットワークを立ち上げ、利用されるようにしたい。より多くの中国人旅行者に使われるようにする。
- デジタル面では、過去数年に行った買収をモバイルアプリに統合し、カード会員に幅広い旅行、食事、ライフスタイルサービスへのプレミアムアクセスとエクスペリエンスを提供。
- お客様の生活の一部となるように関係性を深める。現在、アクティブなカードメンバーの81%がアプリやウェブサイトを使用。モバイルアプリを使用する顧客は前年比26%増加。
- ニューヨークのMTAでの非接触型のトランザクション等、私たちのビジネスは、まだ成熟していないビジネスだと考えている。
競合他社の買収について
- PayPalのHoney買収を絶賛。
- VisaのPlaid買収をスマートだと評価。(AmexもPlaidに投資している様子)。
- American Expressが目指している戦略と他社は違うと言及。
差別化戦略
- カードメンバーへの旅行や宿泊、空港ラウンジ、特別なイベント、食事などに対するサービス拡充に特化。
- Resy買収(レストラン予約および管理プラットフォーム)
- Cake買収(レストランやバーの支払いをより便利するイギリスのフィンテック企業)
- Mezi買収(AIと人間の知識を使用して、オンライン旅行・予約をパーソナライズ)
- 2020年に1億ドル以上のリストラ費用を計上。従業員を5,000人以上増員している。2020年も引き続き費用を増やす。増員して長年にわたって会社を拡張する計画。
(参考)従業員数の比較
- American Express:59,000人
- VISA:19,500人
- MasterCard:14,800人
◆Square
概況
- 2019年10月31日CaviarをDoorDashへ売却(どちらもフードデリバリ会社)
- 第3四半期の純売上高は、前年同期比44%増の12億7000万ドル。
- 調整後収益は、前年比40%増の6億2000万ドル。粗利益は42%増の5億ドル。
- 第3四半期のキャッシュアプリの収益は前年比115%増の1億5,900万ドル。
(この四半期にアプリの再設計し、検索と利用の簡便化を実施。)
販売と支払いの両面からエコシステムを構築
- 販売実績から貸付を提案する機能がある。
- ウェブサイトビルダー、レジスター、現金アプリ、給与計算、給与支払いなどのツールセットを用意。
- 雇用者から給与を受け取る現金アプリがある。Visaカードと連携し利用可。
- 簡単に株式やビットコインへ投資する機能あり。
- ブーストと呼ばれる報酬プログラムあり。
補足 ブースと報酬プログラム
- 選択したBoostは24時間ごとに交換できる。
- 選択したBoostを1時間ごとに使用できる。
- つまりコーヒーを選択すると24時間は変更できないが、1時間毎にコーヒーを買うとキャッシュバックが受け取ることができる。
- 現在、在庫管理機能がない。在庫管理は煩雑だと理解している。詳細は述べられないが、複雑性を取り除くことが私たちの使命だと考えている。
- 上記のような「販売」と「支払い」の相互に作用し強化する2つのエコシステムを持つ。この2つを接続するのが重要であり、その機会を常に探している。
実施した施策
- 1株以下(フラクショナルシェア)の単位で株が購入できる機能は、ビットコインで学んだことを取り入れた。買いたくても1株単位では株を買えない層は沢山いて、需要があると考えた。(補足:ビットコインは小数点以下の単位で買える。例えば100円で0.000099btcが買える。)
- 投資ツール(株・ビットコイン)は、エコシステムの拡大し、他の収益源を成長させるエンゲージメントドライバーととらえている。例としては、ビットコイン購入ユーザはキャッシュカード発行率が2倍であった。(補足:2019年10月24日に手数料無料で$1から株が買える機能をリリースしている。)
今後について
- 販売とマーケティングを大幅に拡大する予定。
- ソフトウェアツールの認知度を高めることに集中する。
- 売り手の売上を向上させる支援に焦点を当てている。
- 3月中旬に投資家の日を開催する予定
American Express、Squareのまとめ
American Expressの差別化について
・AmexはVisaやMasterCardと違い、市場の拡大より、カードメンバーへのサービスの拡充に焦点を当てている。それは、買収の傾向を見ても明らかである。また、3社の中で、従業員は多く、更に増員している。(従業員の多さは、カード発行者(イシュア)である事も影響していると思われる。)
(参考)類似企業の差別化
- 米国内に比重を置くVisa
- 米国外へ比重を置くMasterCard
- 顧客への付加価値サービスに比重を置くAmerican Express
- 越境ECの決済に比重を置くPaypal(Paypal決済の場合、カード番号を教えなくて良いので安心感がある。)
- 他の競合他社を横目に、Amexはマイペースに我が道を行く感がすごい。
Squareの戦略に対する考察
- Squareの決済端末を導入する層は、これからビジネスを開始する層。つまり、比較的若い世代である。
- 一株以下(フラクショナルシェア)の単位での購入が可能。(≒まだ資産が多くない世代)
- ビットコインの購入が可能。(≒新しいテクノロジーに適応する世代)
これらの方向性は顧客層に合わせた適切な戦略を取っているように推察される。
- フラクショナルシェア(一株以下の単位での株の購入)という少額を広く集め、束ねてマーケットを作る考え方は、最近、よく見られる傾向。
- SaaSは価格を低くして購入層を増やし売上を増やす。
- ソーシャルゲームは無料で集客し、課金ユーザを増やす。
- クラウドファンディングは多数の人から少しづつ資金を調達する。
この傾向も大きな一つのビジネストレンドだと考える。
(おまけ)
SquareのCEOの発言がクレバー。納得性のあるスマートな考え方だと思って、発言者のジャック・ドーシーを調べて見る。Twitterを作った人だった。知らなかった…
一線で活躍する人の考え方が知れるだけでも、決算報告は確認する価値がある。
Squareは決済機能を中心としてE-Commerceのウェブサイト作成ソフトの企業等を買収しながらエコシステムを拡大している。
これはE-Commerceを中心に配送・在庫管理などのエコシステムを整備するShopifyと競合するビジネスという認識が正しいように思われる。
決済周りは競合が多いし、中小企業向けの販売へエコシステムを拡大していくとShopifyとぶつかる。結構、厳しい環境で戦っている企業のように思われる。
ジャック・ドーシー、経営者として気になるので、近々、Twitterの決算も確認してみよう。
(おまけ)
コホート経済学という言葉が何度も出てくる。
(おまけ)
Boostという販売促進のキャッシュバック。単に割引するのではなく、24時間は他に変更することはできないという制約を加えるところが、面白い。お客の選択の嗜好性をデータ分析してそう。
Twitterの140文字の制限は、可読性や情報の拡散性を高めていると思われる。(サーバ負荷を抑えるのが主目的だろうけど。)
制約による状況・行動変化というのは面白いテーマかもしれない。
(おまけ)株取引の手数料無料化
米国のチャールズシュワブを皮切りに株取引は無料化の流れにある。この流れを警戒して、日本のSBIも3年以内に日本株取引の無料化に向けて推進すると宣言し、株の手数料収益から軸足をずらしている。
手数料無料化の流れは今後ますます加速し、株の手数料を主な収益源とする企業は足場を失っていくだろう。
この傾向を、もう少し大きな潮流として捉えて考察してみよう。
お客との接点であり、商売のコアともいえる決済機能を中心にとらえると金融に近いビジネス(銀行・証券・保険)は、他の収益源を持つ競合の参入により体力勝負の価格競争に巻き込まれて、シェアを奪われる傾向が続くだろう。実際、Alibabaはローンの貸付をしているし、チャージに金利をつけるし、保険サービスを提供している。
(おまけ)
売上金が入金されるまでの運転資金の貸し付けや、過去の取引状況から運転資金を貸すというのがトレンドの様子。
貸付をすることで、売り手のビジネスを支援し、金利収入を得たり、取引増加による手数料を増やす企業が多い。
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