「マネタリーベースとマネーストック」「金融政策と財政政策」の違い
「マネタリーベースとマネーストック」 「金融政策と財政政策」の違いを紐解いてみよう
米国株は、市場にお金が「じゃぶじゃぶ」になっているから、株が上がっているというけれど、もう少し丁寧に整理する必要があるように感じている。
「マネタリーベース」と「マネーストック」(旧マネーサプライ)の違い、「金融政策」と「財政政策」の違い、及びその効果の違いを整理してみたい。
アメリカの「マネタリーベース」と「マネーストック」の定義を確認すると、下記の様になっている。(注:日本の定義とは少し違いがあります。)
MB: The total of all physical currency plus Federal Reserve Deposits (special deposits that only banks can have at the Fed). MB = Coins + US Notes + Federal Reserve Notes + Federal Reserve Deposits
M1: The total amount of M0 (cash/coin) outside of the private banking system plus the amount of demand deposits, travelers checks and other checkable deposits
M2: M1 + most savings accounts, money market accounts, retail money market mutual funds, and small denomination time deposits (certificates of deposit of under $100,000).
出典:Wikipedia
因みに、Monetary Base, Money Stockの規模(2020/10/15時点)は、下記の様な比率。
この比率を保ちつつ、図に説明の注釈を加えると、下記のような感じ。
簡単に言うと
- マネタリーベース:金融機関の現金
- マネーストックM1:民間に流通する直ぐ使う現金
- マネーストックM2:民間に流通する直ぐ使わない現金
となる。
もっと簡単に言うと「マネタリーベースがじゃぶじゃぶ」は「銀行に現金がじゃぶじゃぶ」である状態を示し「マネーストックのじゃぶじゃぶ」は「個人に現金がじゃぶじゃぶ」である状態を示す。
「実家が太いのがマネタリーベース」で「財布が太いのがマネーストック」と覚えれば覚えやすいかもしれない。
通常は、銀行にお金がじゃぶじゃぶの状態であれば、銀行が「貸付」し易くなるので、企業や個人が低金利を利用して、お金を借りて「経済活動」を通して利益を上げて「給与」を増やす事で、個人の財布が潤うので、マネタリーベースを増やせば、ジョジョにジワジワとマネーストックが増えると考えられる。
しかし、FRBが金融緩和をして、マネタリーベースを増やせば、株価が上がるというのは、早計である。
FRBが金融緩和によって、国債、社債、モゲージ債の買い付けをした事で、資金繰りに困って企業が破綻する可能性が低くなり、安心感が広がり、短期的に相場は落ち着きを取り戻した。これによって、株価が底打ちしたが、マネタリーベース増加によって、マネーストックが増加するまでには、地道な富を生み出す「経済稼働」が必要になるので、ジョジョにジワジワにゆっくりと効果が実体経済に反映されることになる。
つまり、FRBの金融政策には破綻が避けられるという安心感を生み出す短期的な効果があり、ゆっくりとマネーストックの増加させる長期的な効果が見込まれる。
ここで、「見込まれる」というのが肝で、マネタリーベースを増やしたからといって、実際にマネーストックが増えるかどうかは分からない。日銀の金融緩和とアベノミクスの結果を自分の財布に聞いてみると一目瞭然ではあるのだが、歴史を振り返ってみよう。
例えば、リーマンショック・サブプライム金融危機の際を確認すると以下の通り。
出典:FRED
緑:Monetary Base、青:M1、水色:M2、赤:Nasdaq
サブプライム金融危機の際は、FRBが金融政策によって、MonetaryBaseを増加させたが、銀行の毀損したバランスシートを補填するため使われ、マネーストック(M1,M2)はほとんど増えていない。経済の見通しが悪いとリスクを取る人もいないし、銀行も自分の身を守るのに必死で、お金を貸そうとしないのだ。
次にCOVID-19以降の相場を見てみよう。
出典:FRED
緑:Monetary Base、青:M1、水色:M2、赤:Nasdaq
COVID-19以降の相場を見てみる、マネタリーベース・マネーストックの増加とともに、株価は急回復している。
ココで注目すべきは、6月以降、マネタリーベースは減少しているのに、株価が上がっている点だ。
つまり、マネタリーベースの増加より、マネーストック(M1、M2)との推移の方が株価とは相関性が高いのだ。破綻リスクを抑え込むのに、マネタリーベースは有効に機能したが、相場で重視されるテーマの比重が時間の経過ともに変化してきたとも言える。
前述の図をみれば明らかだが、
金融政策でM1が増えるには、企業や個人に貸付を行い経済活動を通して、富を創出した結果、給与が増えるというステップを踏むので、「金融政策」は、じんわりと長く効くタイプのお薬であるのに対して、財政政策で給付金を配れば、個人の現金(M1)は直接増えるので、「財政政策」は、すぐに短く効くタイプのお薬なのだ。
そして、ここで相場との関連を考えるときのポイントは、増えたM1がどこに行くのか?である。
貯蓄に回されれば、M1が減少し、M2が増加する。
消費に回されれば、どこかの企業の売上になり、一部が給与になってM1に戻ってくる。
投資に回されれば、M1が減少し、株価に反映され、株を売った時にM1に戻ってくる。
増えたM1が、次に、「貯蓄・消費・投資」のどこに向かうか分からない部分があるが、M1と株価の相関を見れば、M1の増加と株価の上昇には相関性があるように見える。
実際にM1とテスラの株価推移を見てみよう。
株価とマネーストック(M1、M2)の関係(10/19修正)
出典:TradingView 赤:テスラ株価 青:M1 水色:M2
毎週木曜日に、2週間前のM1、M2が公表されるため、M1、M2を2週間後ろにずらして、テスラの株価との相関を見てみると、M1が増えたタイミングで株価が上がっている事が分かる。
因みに、赤の丸の部分の様に、M2が減っているタイミングでも株価は上がっている。これは、取り崩した貯蓄(M2)が、株式投資(や消費)へ向かっているケースと推察される。
給付金の受領で増えたM1が、次に「消費・貯蓄(M2)・投資」の3つの選択肢へ向かうと考えると、M2よりも「M1の増加するタイミングと株価の上昇のタイミング」を見た方が、相関が高く意味があるように思われる。
マネーストックが「じゃぶじゃぶ」の金融相場
コロナ以降、財政政策で配られた給付金を原資にして株式投資をするロビンフッダーと呼ばれる若い世代の投資家が増えた。個人投資家のマーケットに占める割合は20%になるとも言われる。
そんな中で、コロナ以降はオンライン系を中心とする新興企業の業績は好調だ。
バリュエーションの見方が分からず、PERが分からず、PSRの理解すら怪しいような、新規参入者のロビン・給付金・フッダー達が活躍する相場では、彼らと同じ目線に立って考える事が必要な局面だったように思われる。
減収の旧世代の企業と、増収の新興企業。例えていうならば、腐りかけているように見えるバナナと、新鮮なバナナをテーブルに並べられたら、どちらを食べたくなるかは明白だろう。
結果論ではあるけれども、あらゆる指標を駆使して割安株を探してくるバリュー投資家よりも、高いと思いながらも、ロビンフッダーの懐事情を横目で盗み見て、ロビンフッダーと一緒に、素人が好きそうな銘柄をサルになってBuyボタンを連打するソフトバンクやARKのような高度な投資戦略が功を奏した形になる。
最近の機関投資家は、恐る恐るサルの後ろをついて行っていたはずが、ジャンヌダルクのようにサルの先頭を走っているようにも見えるので、最後にBuyボタンを押すサルにはなりたくないなぁーと思いながら、追加の財政政策の可決の行方と増減するM1の行方に思いをはせる日々である。
最後に注意事項
追加の財政政策の決定が延期になりそうであれば、株が売却されて資金は一旦、M1に戻ってきてM1が増加する可能性があります。従って、M1が増えているから買いだとかいうような単純なものではないと思います。何に起因するM1の増加なのか?中身に注意したほうが良いと思います。
今まではM1と株価の相関が高いように見えますが、今後を保証するものではないので注意してください。
お金のじゃぶじゃぶ具合を確認するのに、本文に述べた様な理由で、Monetary Baseを確認するのは、今のトレンドではない気がするし、M2を見ているのも少し、的外れな気がしています。
しかし、私は専門家ではありません。
うんうんと頭を悩ませながら整理してみた情報ですが、情報に誤りや誤解している可能性もあります。参考程度にして、自分で裏どりをして貰えると幸いです。間違っていたら教えて頂けると嬉しいです。
おまけ 全知全能感について
たまに相場が分かった気になって、全知全能にでもなった気がするのだが、大体、ルールが変わったり、誤解だったりして、数日後には、ぼく、何も分からない・・・っていう状態になるのが世の常です。
全知全能といえば、ディオ(ジョジョの奇妙な冒険)が「時間を止める能力」に目覚めて全知全能の神になったような感覚になる場面があるのだけど、それに近い感覚を経験したことがあるので、その話をしてみたい。
目的は「ジョジョ」の聖地巡礼みたいなものだったのだが、イタリアのカプリ島の青の洞窟に行ったことがある。
しかし、波が高くて危険だということで、結局、洞窟に行けずに絶望に打ちひしがれて、カプリ島を彷徨う事になった。無目的に、どんどん歩いて行くと、あたりに人もいなくなり、そのうち民家ばかりになってしまった。
と、突然の尿意に襲われ、緊急事態に陥ってしまった。
英語が通じない民家でトイレを借りるのは流石にハードルが高い。
相手の身になって考えてみて欲しい。ある日、急に自分の家に外国人が訪ねてきて、股間を抑えながら、身振り手振りのジェスチャーで尿意を伝えられ、トイレを借りて去って行ったら、ちょっとした事件である。
ハードルが高いなぁと思いながらも、背に腹は代えられない。と思いながら民家を良く観察してみると、シーズンオフの別荘地のようで、人の気配がない!
広がる絶望感と尿意。
このままでは、股間が「ジョジョ」になってしまう。
帰りの船に乗れたとしても、股間がジョジョでは、肩身が狭い。
時を止める能力か、尿意を吹き飛ばす能力があればいいのだが、当然そんな能力はない。
なんとしても「股間がジョジョの奇妙な冒険」の主人公にはなりたくない。焦る気持ちと尿意を抑えながら、速足で更に、ずんずん歩いていくと、前方に雑木林を発見。
すぐに雑木林に駆け込み、事なきを得たのだが、その瞬間の解放感は格別だった。
圧倒的な解放感、視野が広がる感覚!
地球上のすべてが自分のトイレになったような征服感!
全知全能になったような無敵感!
ディオが時を止める能力に目覚めた時の感覚は、こんな感じだったのかなぁと思った瞬間でした。そんなジョジョの聖地巡礼の旅でした。
まぁ、そんなこんなで、カプリ島は私の縄張りになっていますので、以後ご注意願います。
ジョジョの聖地巡礼に行ったら、尿意と焦りがジワジワと広がってきたけど、事なきを得て、全知全能になった感覚になった話でした。
何の話をしていたか分からなくなりましたが、何かの参考になれば幸いです。
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